人工膝関節について - 人工膝関節置換術
人工膝関節置換術
主に膝関節痛で悩む人に行う人工膝関節手術 「人工膝関節置換術(じんこうひざかんせつちかんじゅつ)」について、できる限り簡単にわかりやすく説明します。
人工膝関節置換術はどんな人に行う手術ですか?
人工膝関節置換術は、下記のような疾患の患者さんに対して手術します。
変形性膝関節症
(へんけいせいひざかんせつしょう)
膝関節を構成する骨(大腿骨、脛骨、膝蓋骨)が変性し、関節軟骨の減少や骨の変形を起こす病気です。
膝関節骨壊死症
(ひざかんせつこつえししょう)
関節内に存在する滑膜という組織が異常増殖することによって関節内に慢性の炎症を生じる疾患で、進行すると関節が破壊され様々な程度の機能障害を引き起こします。
膝関節の破壊が見られる場合には人工膝関節置換術を行う場合があります。
関節リウマチ
(かんせつリウマチ)
関節内に存在する滑膜という組織が異常増殖することによって関節内に慢性の炎症を生じる疾患で、進行すると関節が破壊され様々な程度の機能障害を引き起こします。
膝関節の破壊が見られる場合には人工膝関節置換術を行う場合があります。
人工膝関節置換術とはどんな手術ですか?
前述した疾患(変形性膝関節症や膝関節骨壊死症、関節リウマチなど)により骨や軟骨が壊れて傷んでしまった膝関節を、金属やプラスチックでできた人工膝関節に置き換える手術です。
Total Knee Arthroplasty(TKA)または、Total Knee Replacement(TKR)と表記されることもあります。
具体的には、膝関節を形成する大腿骨および下腿骨(脛骨)の骨(軟骨)を傷んだ部分ごと切除し、切り取った部分に人工膝関節(インプラント)を挿入します。インプラントは骨セメントを使用して固定します。
さらに大腿骨側と下腿骨側のインプラントの間に超高分子ポリエチレンで加工されたベアリングを装着し、合体(整復)させます。
ベアリングと大腿骨側インプラントの間には可動性があり、膝関節の可動性も得ることができます。
痛骨や軟骨の損傷が膝の内側のみに限局している場合は人工膝関節単顆(たんか)置換術の適応になる場合があります。 単顆置換術であると手術侵襲(手術の体への負担)がやや少なくて済みます。
適応となるかどうかは主治医とご相談ください。
どんな症状だと手術した方がよいですか?
レントゲンなどの画像所見も重要ですが、基本的には患者さん本人の症状が一番重要です。日常生活レベルで痛みを感じたり、跛行(歩くときに足を引きずること)がある場合は手術をおすすめしています。
痛みがあまりなくても、膝関節の可動域制限(膝関節が固く、曲げたり伸ばしたりできない状態)や跛行がある場合も手術をおすすめする場合があります。詳しくは受診した際に医師とご相談ください。
手術の前にどんな準備をしますか?
画像検査としてレントゲンとCT、MRI検査が必須です。
手術に際して、全身検索のため、血液検査、胸部レントゲン、心電図の治療は手術をされる患者さん全員に行っております。
必要に応じて心臓超音波検査、下肢静脈超音波検査を行ったり内科医師の診察が必要になる場合があります。
入院から退院までどのくらいの期間がかかりますか?
退院までの期間は個人差はありますが通常手術後2〜3週間程度です。ほとんどの患者さんが手術後2週間程度で安定した歩行ができるようになり、退院可能となります。
患者さんによっては短期での退院や長期入院による治療も可能ですので希望があればご相談ください。
入院~退院までの流れの詳細はこちらを御参照ください。
退院後通院は必要ですか?
退院後も定期的な診察は必要です。
退院直後は2〜4週間後に受診していただくことが多く、その後は徐々に受診間隔が空いていきます。時間が経過して状態が安定してからは、年1回程度の通院(定期検診)で経過を観察します。
退院後リハビリは必要ですか?
入院中に行うリハビリによって日常生活を送れるレベルまで歩行できていることが多く、退院後のリハビリはほとんど必要ない場合もあります。また必要があれば週1〜2回程度の通院リハビリを行うことが可能です。
人工膝関節置換術の
メリットとデメリット
人工膝関節置換術のメリット・デメリットを教えてください
人工膝関節置換術のメリット・デメリットとして、主に下記のようなものが挙げられます。
人工膝関節置換術のメリット
○ 痛みの大幅な軽減
人工膝関節置換術の最大のメリットとして、大幅な痛みの軽減が期待できます。
人工膝関節置換術は痛みの根本原因(損傷した関節組織)を置き換える手術です。膝関節周辺の傷んだ組織を取り除くことで痛みをほとんど感じなくなるとともに、人工関節の表面は神経がなく滑らかなため、膝関節が滑らかに動くようになります。
痛みの改善による歩行姿勢の改善や他部位の関節への負担軽減などの副次的効果も期待でき、生活の質(QOL)が大きく改善されます。
○ 早期歩行が可能・入院期間が短い通常は術後数日から立位、歩行訓練を開始することが出来ます。また従来の1~2ヵ月の入院期間が2〜3週間程度に短縮されますので、早い社会復帰が可能です。
人工膝関節置換術のデメリット
△ 手術直後の痛み
かつて人工膝関節手術はすべての手術の中で最も麻酔がさめた後の痛みが強い、と言われており、手術による侵襲によって手術後の膝の腫れや痛みは完全には避けられません。
ただ当院ではこの痛みを最大限軽減するためにさまざまな工夫を行っております。痛みについての詳細は こちら(よくある質問「手術はすごく痛いと聞きましたが大丈夫ですか?」)をご覧ください。
△ 可動域の制限手術後のリハビリにより120-130°程度まで(自転車を漕ぐ程度)の屈曲角度を得ることは可能ですが、正座(約155°)することは難しいケースが多いです。
手術後の制限についての詳細は こちら(よくある質問「手術後運動制限はありますか?)」をご覧ください。
手術費用について
どれくらい費用がかかりますか?
基本的に人工膝関節置換術を行う場合は高額療養費制度の対象になります。
年収によって自己負担額の上限が異なりますので、下記の表を参照ください。
適用区分 | 外来(個人ごと) | ひと月の上限額(世帯ごと) | |
---|---|---|---|
現役並み | 年収 約1160万円〜 | 252,600円+(医療費-842,000円)×1% | |
年収 約770万円〜1160万円 | 167,400円+(医療費-558,000円)×1% | ||
年収 約370万円〜770万円 | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% | ||
一般 | 年収 約156万円〜約370万円 | 18,000円 (年144,000円) |
57,600円 |
住民税 非課税等 |
Ⅱ 住民税非課税世帯 | 8,000円 | 24,600円 |
Ⅰ 住民税非課税世帯 (年金収入80万円以下など) |
15,600円 |
横にスクロールしてください。
適用区分 | ひと月の上限額(世帯ごと) | |
---|---|---|
ア | 年収 約1160万円〜 | 252,600円+(医療費-842,000円)×1% |
イ | 年収 約770万円〜1160万円 | 167,400円+(医療費-558,000円)×1% |
ウ | 年収 約370万円〜770万円 | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% |
エ | 年収 〜370万円 | 57,600円 |
オ | 住民税非課税者 | 35,400円 |
横にスクロールしてください。
入院〜退院の流れについて
入院当日の流れ
- 人工膝関節手術の場合、入院は基本的に手術前日です(月曜日の場合は金曜日)。午前中(10時ころ)に病院に来院していただき入院手続きを行います。
- 入院当日は麻酔科医師の説明、リハビリの理学療法士からの説明などがあります。主治医からの最終的な手術説明がある場合もあります(外来で同意書に沿った形の説明が済んでいる場合はありません)。
- 基本的には入院前に検査は済んでますが、状況によっては入院後に追加で検査を行う場合もあります。
手術当日の流れ
- 手術室入室の時間になったら、歩ける方は歩いて手術室まで向かいます。
ご家族がいれば、一緒に手術室の前まで行くことが可能です。 - 手術室に入ったら本人確認や手術部位の確認を行った後に麻酔開始となります。
- 麻酔は全身麻酔をかけて眠った後に伝達麻酔(手術後の疼痛緩和のための神経ブロック注射)を行います。次に目が覚めたときには手術は終わっています。
- 手術では麻酔下で膝の皮膚を切開し、損傷した骨を切除した後、インプラント(人工関節)を骨に固定します。膝関節が機能するように、膝のまわりの靭帯も調節します。
インプラントがしっかり固定され、十分に機能することを確かめてから、切開した部分を縫合します。 - 麻酔から醒めていることが確認できたら、病棟の自室に戻ります。手術当日は基本的にベッドの上で安静となります。
手術翌日~退院までの流れ
- 手術翌日からリハビリが開始されます。まずは車椅子に乗ることが第一段階ですが、順調な方は補助具(平行棒、歩行器)を用いて歩行練習を行います。平行して、膝関節を曲げる訓練も行います。
- リハビリの進み具合には個人差があります。早い方は数日で杖を使用した歩行が可能になりますが、そうでない方もいます。リハビリが遅れても焦る必要はありません。
- 手術後2週間程度経過すればほぼ全員が杖を使用して歩行できるまで回復します。仮にリハビリに時間がかかり、安定した歩行能力が得られていない場合は入院を延長することも検討します。
- 基本的に手術後翌日、1週間後、2週間後に血液検査、1週間後、2週間後にレントゲン撮影を行いますが、経過によってはさらに検査が追加される場合もあります。
人工膝関節置換術
よくあるご質問
手術後運動制限はありますか?
人工膝関節置換術の手術後は、日常生活レベルでは基本的に運動制限はありません。ただし人工関節に大きな負担がかかることもありますので、正座は避けてください(禁忌肢位) 。
膝が悪い患者さんは元々できない方が多く、リハビリにより120-130°程度までの屈曲角度を得ることは可能ですが、手術後も正座することは難しいです。 手術前の可動域が良好でかつ、単顆置換術を行った場合は正座が可能な患者さんもいらっしゃいます。
スポーツに関しては退院直後に行うのは難しいかもしれませんが、最終的にはウォーキングや軽いジョギング、水泳、ゴルフ、社交ダンスなどは特に制限なく行ってもらって構いません。 その他の負荷が強いスポーツや他人との接触があるスポーツについてはお勧めできないことが多いため、主治医とご相談ください。
手術はすごく痛いと聞きましたが大丈夫ですか?
人工膝関節置換術の手術は一般的な手術の中でも痛い手術といわれています。手術による侵襲で、手術後の膝の腫れや痛みは完全には避けられません。
しかし、少しでも手術及び手術前後に痛みを軽減するために当院では様々な工夫をしています。手術の前に伝達麻酔(神経ブロック)を行ったり、手術中にカクテル注射(麻酔薬や抗炎症薬、抗生剤などを混ぜた注射)を局所に注射を行い、もちろん手術後には定期的な鎮痛薬の内服も行います。
これらの工夫により以前と比べると格段に疼痛コントロールが良くなっています。個人差はありますが、入院中ほとんど痛みを感じないで経過していく方も多くいらっしゃいます。
高齢でも手術できますか?
人工膝関節置換術の手術は、重い持病がなく、ある程度元気であった患者さんであれば年齢による制限はありません。90歳以上でも手術する場合もあります。持病がある場合は手術前に内科受診してもらったり、追加検査が必要になる場合があります。
当院は内科医師も多数おり、持病がある方への対応や、合併症が起きた場合のバックアップ体制もできております。
人工関節には耐用年数があると聞きましたが、若年でも手術できますか?
結論から申し上げると手術は可能です。患者さんの年齢は重要ですが、症状、日常の活動性、持病の有無などを考慮して手術を行うかどうかを決めます。
以前はインプラントの質が現在より悪く、15年~20年程度で再置換手術が必要になる例が多く、65歳以下は手術を行わない方針の病院もたくさんありました。しかし、インプラントの進化により、長期の耐用年数が望めるようになったため、比較的若年であっても痛みの症状や歩行障害が強い場合は手術を行うことがあります。
もちろん若年であれば長期的に再置換手術が必要になるリスクはありますが、症状が強い場合は、その状態で10年、20年も我慢する方が患者さんの負担になると判断すれば手術を行った方が良いと考えております。
手術後どのくらいで歩けるようになりますか?
人工膝関節置換術の手術翌日からリハビリが開始され、患者さんによっては、翌日から補助具(平行棒や歩行器)を用いて歩行練習が可能になります。個人差がありますが、順調であれば、手術後1週間~10日程度で杖歩行が可能になる患者さんが多く、ほとんどの患者さんが手術後2週間程度経過すれば、杖を使って安定した自立歩行ができるようになり、退院可能となります。
一方で手術後、膝関節の痛みや違和感は入院中に完全には取れないこともありますが、退院後数か月で徐々に取れていくことがほとんどです。
手術後は早く退院できますか?長く入院できますか?
通常は、人工膝関節置換術の手術後2週間程度までしっかりリハビリし、また2週間後の採血やレントゲン、手術の傷が問題ないことを確認してから退院することを勧めています。
しかし一方で、前述のように、順調な患者さんは手術後1週間程度で杖を使用して安定した歩行が可能となります。お仕事の都合や家庭の事情で早期退院を希望される方はご相談いただければ病状にもよりますが、手術後1週間程度で退院可能なことも多いです。
逆に高齢であったり、痛みで動けない期間が長く、長期のリハビリが必要になる患者さんもいらっしゃいます。長期のリハビリ、入院が希望であったり、主治医が長期リハビリが必要と判断した場合はリハビリ専門の病院(回復期病院)への転院も可能です。
詳しくは受診した際に医師とご相談ください。
両方の膝関節が悪いですが同時に手術できますか?
可能です。ただし人工膝関節の両側同時手術にはメリット・デメリットがあります。
メリットとしては一回の入院で済むことや片方ずつやることで起きる左右差(痛みの差や脚長差)が起こりにくいことです。一方でデメリットとしては体への負担が大きくなること(例えば出血量は単純に約2倍になります)、手術直後のリハビリがやや大変な点などがあります。貧血がある方や持病がある方は主治医の判断で両側同時手術ができない場合もあります。メリット、デメリットをご理解の上、主治医とご相談ください。
輸血は必要ですか?
人工膝関節置換術の手術では100~300cc程度出血します。元々貧血が無い方であれば、輸血が必要になる可能性は低いですが、予想外の出血を起こすこともあるため、その場合は同種血輸血を行う可能性があります。
青葉病院で手術するメリットは何ですか?
当院には人工関節学会認定医が3人(坂本、渡辺、輪湖医師)在籍しており、経験豊富な医師が専門的な診療を行っています(2022年度人工膝関節置換術65件)。
麻酔科と連携し、術後の疼痛コントロールには力を入れており、できる限り手術後に患者さんが痛みがでないように工夫しております。リハビリスタッフも充実しており、手術後2週程度でほとんどの患者さんが自立歩行可能で自宅退院しております。
逆に長期のリハビリが希望の患者んには地域の病院との連携もスムーズであるため、リハビリ専門の病院(回復期病院)への転院も可能です。
また、総合病院である当院には内科や救急科、他科の医師も多数在籍しています。高齢で持病が複数ある方もバックアップ体制があるため、比較的安心して手術を受けていただけると考えております。残念ながら合併症が起きてしまった場合でも他科と連携して、速やかに対応可能です。