心室中隔欠損のない肺動脈閉鎖(PA / IVS:Pulmonary Atresia / Intact Ventricular Sep-tum)
心室中隔欠損のない肺動脈閉鎖は比較的まれな病気で、出生10,000人につき1人の割合で生まれます。右心室から肺動脈への出口が塞がれているため、肺動脈へは順行性に静脈血が流れない状態です。
よって肺動脈への血流は動脈管に依存することになります。診断がつき次第、出生後はプロスタグランジンという薬剤の持続点滴で動脈管が閉まらないように開けておく必要があります。
全身から右心房に還ってきた静脈血は「卵円孔」と呼ばれる心房間の孔を通して右心房から左心房に流れ、そこで酸素を多く含んだ動脈血と混ざります。
混ざった血液は左心室、大動脈へと流れます。よって、酸素濃度の低い血液が全身に流れる状態(チアノーゼ)になります。
20%に「類洞交通(sinusoidal communication)」といって、冠動脈が右心室と交通している冠動脈異常を併せ持つことがあります。
治療
右心室・三尖弁の大きさにより循環・治療戦略が異なります。
右心室・三尖弁が
- A.
- 十分に大きい場合、2心室修復が行われます。肺動脈弁を1)内科的に心臓カテーテルによって拡げたり、2)外科的に弁を切開して拡げたりして、右心室から肺動脈への血液の流れを確保し、右心室を肺循環のために使えるようにします。
- B.
- その中間(十分に大きくも非常に小さくもない場合)、1.5心室修復(One and a Half Ventricular Repair)を選択する場合があります。これは上半身から還ってくる静脈血が流れる上大静脈を直接右の肺動脈に吻合し(BCPSまたはGlenn(グレン)吻合と呼ばれます)、下半身からの静脈血を含む血液は、「卵円孔」と呼ばれる心房間の孔を通して右心房から左心房に流れるようにする手術です。
- C.
- 非常に小さい場合、単心室循環を選択します。単心室循環は、段階的手術を行い、3段回目の「Fontan(フォンタン)手術」が最終形となります。
三尖弁・右心室が非常に小さい場合は単心室循環の修復が必要です。1段階目の手術として、「BTシャント手術」を行います。
BTシャント手術はゴアテックス®︎という人工血管を大動脈の枝 から肺動脈に繋ぎ、肺動脈に流れる血液を増やすことで、肺で酸素をたくさん含んだ血液が左心房に流れるようにする手術です。
単心室循環の場合は、2段階目に「BCPS(Glenn(グレン))手術」、3段階目に「フォンタン(Fontan)手術」を行います。フォンタン手術が終わった後は、チアノーゼがなくなり酸素化された血液が全身に流れます。
説明の中の図は「PICUハンドブック 小児集中治療の最前線 テコム」から許諾を得て掲載しています。
先天性心疾患の病態
- 心室中隔欠損症(VSD:Ventricular Septal Defect)
- 心房中隔欠損症(ASD:Atrial Septal Defect)
- 房室中隔欠損(AVSD:Atrio-Ventricular Septal Defect)
- 肺動脈絞扼術(PA banding術)
- ファロー四徴症(Tetralogy of Fallot)
- 心室中隔欠損のない肺動脈閉鎖(PA / IVS:Pulmonary Atresia / Intact Ventricular Sep-tum)
- BCPS(Glenn(グレン))手術
- フォンタン(Fontan)手術
- 総肺静脈還流異常症(TAPVD:Total Anomalous Pulmonary Venous Drainage)
- 大血管転位症(TGA:Transposition of Great Arteries)
- 総動脈幹症(Truncus Arteriosus)
- 大動脈縮窄症(CoA:Coarctation of Aorta)
- 大動脈離断(IAA:Interrupted Aortic Arch)