甲状腺疾患(甲状腺の病気)について
甲状腺とは
このページでは、甲状腺及び甲状腺疾患(病気)について、できる限り簡単に、わかりやすく説明します。
甲状腺とは?
"甲状腺(こうじょうせん)"は頸部の前面に存在し、体の代謝機能を調節する甲状腺ホルモンを分泌している組織です。
甲状腺ホルモン分泌が過剰になると「甲状腺機能亢進症状(こうじょうせんきのうこうしん)」、ホルモン分泌が低下すると「甲状腺機能低下症状」が出現します。また甲状腺はしこりもできやすい組織です。
甲状腺疾患について
「甲状腺機能亢進症」の原因・症状・治療
甲状腺機能亢進を起こす疾患は複数ありますが、代表的な疾患はバセドウ病があげられます。
バセドウ病は、甲状腺に刺激を与える抗体が体の中でできることによって起こりますが、なぜ甲状腺に対する自己抗体が過剰にできるのかはわかっていません。
甲状腺ホルモンが過剰になることで、次のような症状を生じます。
バセドウ病の症状
甲状腺ホルモンは、体の代謝を亢進させる働きがあり、動悸・息切れ・指先のふるえ・暑がり・体重減少・イライラ・下痢・月経不順などの症状が起こります。
バセドウ病の治療
バセドウ病の治療には、内服薬・放射性ヨード(アイソトープ)・手術の3つがあります。どの方法を選ぶかは、その方の症状、年齢、社会的状況、バセドウ眼症の有無等によって変わってきますので、患者さんの状況を確認した上で慎重に検討いたします(なお、バセドウ病の強度の眼球症状には、眼科医とも協力した専門的な治療が必要となります)。
バセドウ病の各治療法の比較
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抗甲状腺剤 | 放射性ヨード | 手術(※) | |
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利点 |
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欠点 |
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3つの治療法があるということは、どれも完全な治療法ではないと言うことを意味しています。
薬の治療は簡単ですが、長くかかったり副作用が問題となったりします。放射性ヨードと手術も一回の治療で全員が治癒するというわけではなく、一部の患者さんに機能亢進症が残ってしまったり、逆に永続する機能低下症になったりします。
ですから、治療にあたっては患者さん自身がどんな治療を望んでいるのか、相談しながら選択していきます。
「甲状腺機能低下症」の原因・症状・治療
代表的な疾患として橋本病について下記で説明します。
橋本病は、甲状腺に炎症を起こす抗体が体の中でできてしまうことによって起こります。橋本病もバセドウ病と同じく、自己抗体によって慢性的な炎症が生じることで発生する病気です。
橋本病の症状
橋本病の症状は、ホルモンの分泌状態で違ってきます。
① 甲状腺の働きが正常の場合(甲状腺機能正常)
橋本病で甲状腺に慢性炎症が起きていても、甲状腺の障害の程度が少ないと症状は出ないため、治療は必要ありません。
② 甲状腺の機能が低下している場合(甲状腺機能低下症)
体全体の代謝が低下することで身体に様々な症状が生じます。
橋本病の甲状腺機能低下症はしばしばゆっくりと進行するため、症状を自覚しないこともあります。
- 代表的症状
浮腫・体重増加・気力の低下・皮膚が乾燥する・脱毛・声が嗄れる・寒がり・物忘れがひどい・便秘・月経異常など
③ 甲状腺ホルモンが一時的に過剰になる場合(無痛性甲状腺炎)
甲状腺には作られた甲状腺ホルモンを蓄えておく場所があります。まれですが、橋本病の炎症が強いときにこのタンクからホルモンが漏れだし、一時的に甲状腺ホルモンが多くなり、甲状腺機能亢進症と紛らわしい症状を起こすことがあります。
この症状は無痛性甲状腺炎と呼ばれ、通常は治療をしなくても数ヶ月で自然に治まります。
橋本病の治療
橋本病でも甲状腺機能が正常の場合には、定期的な観察をするだけで特別な治療は必要ありません。
甲状腺機能が低下している場合には甲状腺ホルモン剤(商品名:チラージンS)を用いて補充治療を行います。甲状腺ホルモン剤は、至適量を内服している限り副作用はありません。
血液中の甲状腺ホルモンが正常化すれば、甲状腺機能低下症の症状はとれてきます。
甲状腺と結節病変
甲状腺の局所が部分的に腫れている、つまり甲状腺にしこりがある状態を「結節性甲状腺腫(けっせつせいこうじょうせんしゅ)」と呼びます。
大部分の患者さんはしこりがある以外自覚症状はありません。大部分のしこりは良性ですが、一部に悪性のしこりもあるため、精密検査で両者を鑑別します。
1.良性結節
甲状腺の良性結節には以下のような疾患があります。
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腺腫(せんしゅ)
腫瘍性の細胞増殖による病気ですが、増殖している細胞は良性です。ほとんどの場合甲状腺機能は正常ですが、一部に、甲状腺ホルモンを産生・分泌する腺腫があります。その場合はバセドウ病とよく似た症状を起こします。
腺腫様甲状腺腫(せんしゅようこうじょうせんしゅ)
結節が1つだけのこともありますが、複数の結節を甲状腺内に認めることもあり、腺腫様甲状腺腫と呼ばれます。大部分の腺腫様甲状腺腫は甲状腺機能が正常ですが、一部に甲状腺機能亢進症を伴う場合があります。
甲状腺嚢胞(こうじょうせんのうほう)
甲状腺の内部に液状に変化した部分があることをいいます。
2.悪性結節
甲状腺の悪性結節の代表は「甲状腺癌(こうじょうせんがん)」です。
甲状腺がんは、甲状腺の細胞が悪性腫瘍となり増殖した病気です。
甲状腺がんは、さらに増殖している腫瘍細胞の種類により、乳頭がん・ろ胞がん・未分化がん・髄様がん・悪性リンパ腫に分類されます。
甲状腺がんの9割以上は、進行が大変遅く治りやすい「乳頭がん」という種類のがんです。たとえば、甲状腺がんは手術5年後の生存率が90%を越えており、がんとしては予後の良いがんといえます。このため甲状腺がんは(たとえ周囲のリンパ節に転移があったとしても)ほとんど手術により治ることが多いです。
結節性甲状腺腫の鑑別方法
良性・悪性の鑑別には、触診・血液検査・甲状腺エコー検査などを施行しますが、決め手となる検査は穿刺吸引細胞診です。
細い注射針を甲状腺のしこりに刺して吸引をかけ、針の中に採取されたしこりの細胞を顕微鏡で観察し、細胞の良性・悪性を直接診断するものです。痛みは普通の採血と比べて違いはありません。
結節性甲状腺腫の治療方法
良性結節の患者さんの大部分は、年に1~2度、経過観察を行い、「形の変化や増大がないか」と「甲状腺機能に異常がないか」を特に確認します。これらに異常が無い場合、特別な治療は必要としませんが、細胞診で悪性と区別が難しい場合は、良性結節でも手術をおすすめすることもあります。
悪性結節の場合は手術による病変の切除が治療の中心になります(悪性リンパ腫は、手術よりも放射線・抗ガン剤の治療が中心となります)。
結節性甲状腺腫に対する手術の詳細はこちらをご覧ください。
甲状腺の病気の手術について
甲状腺の病気の手術について、主な病気別にまとめております。下記リンクよりご参照ください。
バセドウ病に対する手術
バセドウ病に対する手術の適応
バセドウ病の手術の目的は、甲状腺ホルモン産生組織を切除して、異常な甲状腺刺激物質(TRAb)が残存甲状腺組織を刺激しても過剰な甲状腺ホルモンが出ないようにすることです。以下のような理由で手術をお勧めすることがあります。
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- 重篤な副作用(無顆粒球症や肝障害)のために抗甲状腺薬の継続が困難な場合
- バセドウ病に悪性腫瘍が合併している場合
- 甲状腺腫が大きく抗甲状腺薬で治りにくい場合
その他、TRAbが高いため将来の出産に不安がある方、抗甲状腺薬での完治が困難な方、眼球突出が高度な方、早期に治癒希望の方も手術適応となることがあります。
バセドウ病に行う手術
手術には甲状腺組織を2g以上残す亜全摘術、1g以下残す準全摘術、甲状腺を全て取る甲状腺全摘術がありますが、当院は基本的には甲状腺全摘術をおこなっております。
術後は甲状腺ホルモンを作ることができなくなるため、一生甲状腺ホルモンの内服が必要となります。
従来は術後の甲状腺機能の正常化を期待した亜全摘術が標準術式でしたが、術後に甲状腺機能が正常になる方は約半数程度です。その上、術後の甲状腺機能が変動し、長期的には残した甲状腺が大きくなり再発する事も多く見られます。亜全摘術により全ての方の甲状腺機能を正常化するのは困難です。
最近では患者さんの術後経過を考慮して全摘術もしくは準全摘術をお勧めしています。例えば、術後再発があってはならない無顆粒球症の方には全摘術か準全摘術を行います。TRAbが高く出産を控えた若い女性の場合、将来再発がなく、TRAb(胎児の甲状腺機能に影響します)が低下しやすい全摘術を強く勧めています。
バセドウ病の術後回復の経過・外来での経過
全摘術・準全摘術を行った方は術後甲状腺機能低下症となりますので、終生甲状腺ホルモンの服用が必要です。甲状腺ホルモンは副作用がなく、妊娠中、授乳中でも安心して服用できます。
良性腫瘍に対する手術
良性腫瘍に対する手術の適応
良性腫瘍は、基本的には経過観察でよいものがほとんどですが、 以下のような理由で手術をお勧めすることがあります。
- 悪性の可能性がある(特に細胞診では診断のつきにくい濾胞(ろほう)がんの場合には手術が必要です)
- 腫瘍が充実性で大きい
- 大きくなる傾向がある
- 超音波で形状が不整である
- 血中サイログロブリンが高値である
- なんらかの症状を有している(もしくはこれから予想されるもの)
気管を圧迫する大きな腫瘍などは、手術の対象になることがあります
良性腫瘍であれば、かなり大きく(5cm程度)ならないと症状を起こしません。小さな腫瘍でも頸部の違和感(前頸部の圧迫感、飲み込む時のつっかえ感)を訴える患者さんがよくいらっしゃいますが、これには精神的な要素も大きいようです。この場合、手術をすればその違和感が軽減するどころか、逆に悪化することもありますので、あまり手術はお勧めいたしません。
良性腫瘍に行う手術
術前に良性であると分かっている腫瘍に対しては、腫瘍を含む甲状腺のみをとる手術を行います。たいていは、片側に存在する腫瘍を含む甲状腺の半分を摘出する手術(甲状腺葉切除術)を行います。
良性腫瘍の術後回復の経過・外来での経過
手術後も経過観察は必要ですので、外来への通院が必要です。
悪性腫瘍に対する手術
悪性腫瘍に対する手術の適応
悪性腫瘍に対しては、手術を行って切除することが基本となります。しかし、微小がんの項目で述べているように、小さな乳頭癌に対しては経過を見ることもあります。
悪性腫瘍に行う手術
術前に悪性の確定診断がついているか、疑いの強いものについては、甲状腺の切除に加えて、リンパ節の切除もあわせて行います。甲状腺、リンパ節の切除範囲は、腫瘍範囲、予想されるリンパ節転移の範囲によって決定されます。
リンパ節とは、リンパ液を運んでいるリンパ管の関所のようなところで、甲状腺乳頭癌ではそのリンパ節に転移する確率が高いとされています。甲状腺の手術時には、腫瘍の大きさなどからどこまでリンパ節を切除するかを考慮します。
大きく分けると甲状腺に近い部分のリンパ節(中央領域)だけを取る手術と頸部の血管にそった部分のリンパ節(外側領域)まで切除する手術に分けられます。
悪性腫瘍の術後回復の経過・外来での経過
手術後も経過観察は必要ですので、外来への通院が必要です。
悪性の腫瘍で手術をされた方は、たとえ甲状腺を全部摘出してリンパ節の郭清を行ったとしても、悪性の細胞の遺残がないとは言い切れないので、定期的な検査が必要です。
定期的に超音波検査、CT検査、採血検査などを行います。再発を抑制するためにTSH抑制療法を行うこともあります。
甲状腺の手術 よくある質問
甲状腺手術の場合、入院期間はどのくらいですか?
全ての手術について、手術前日に入院となります。入院の期間は1週間程度ですが、術後の経過によっては延長します。
甲状腺手術の基本的なスケジュールをおしえてください
大まかなスケジュールは以下の通りです。
1日目 | 入院 |
2日目 | 手術 |
8日目 | 抜糸・退院 |
甲状腺の病気の手術費用はどのくらいかかりますか?
甲状腺の病気の手術費用(めやす)は以下の通りです。
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病気の種類 | 負担額(3割負担) |
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良性腫瘍 | 18万円前後 |
悪性腫瘍 | 25万円前後 |
バセドウ病 | 40万円前後 |
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受診について
何科を受診すれば良いですか?
通常は「内分泌科(代謝内科)」または「耳鼻咽喉科」が対応しますが、甲状腺の病気は似た症状の病気も多く、誤って診断されることもあります。また症状によっては対応科が変わることもあります。
青葉病院では2018年より「甲状腺・副甲状腺センター」を開設しており、内分泌科・耳鼻咽喉科・眼科の医師間で連携を取りながら、診断から治療まで一貫して行なっております。
診療実績は年間何件くらいありますか?
直近の診療実績については「甲状腺・副甲状腺センター」のページに掲載しておりますのでご参照ください。
どのようにして受診できますか?
他院で甲状腺の病気と診断され、青葉病院での治療をご希望される場合は、主治医の先生と相談していただき、主治医の先生から青葉病院への連絡をお願いしてください。
予約の取得方法については「初診の方・予約のない方」のページをご参照ください。
甲状腺・副甲状腺センターについてインタビューを掲載しております。ぜひご覧ください。